産業機械や装置の設計において、一方向に連続回転させたい場合、通常のケーブル接続では配線の「ねじれ」や「断線」が必ず発生します。この課題を根本から解決し、無限回転下での電源供給と信号伝送を可能にするのが、スリップリングです。
本記事では、スリップリングの基礎的な動作原理から、産業界における具体的な用途、選定のポイントについて解説します。
スリップリングとは、固定体(ステーター)から回転体(ローター)へ、回転を止めることなく電力や電気信号を伝送するための部品です。
基本的な構造は、回転側に配置された金属製の「リング」と、固定側に配置された導電性の「ブラシ」で構成されています。リングが回転しても、ブラシがその表面を常に摺動し続けることで、電気的な接続が保たれます。
ケーブルが絡まることなく、エンドレスな回転動作が可能です。
かつては電力の供給が主でしたが、近年のスリップリングは高性能化が進んでいます。
スリップリングは、外からは見えにくい装置内部に組み込まれているため、普段目にする機会は少ないですが、様々な産業分野で重要な役割を担っています。
需要が多いのは、産業用機械や自動化設備(FA)の分野です。例えば、ペットボトルのラベル貼りや液体充填を行うロータリー式の包装機械では、高速で連続回転しながら制御信号や電源を供給するために不可欠です。
ワークを載せて回転させるインデックス・ターンテーブルへの給電や、クレーン等に使われるケーブルリールの集電部分にもスリップリングが内蔵されており、生産設備の自動化を支えています。
高い信頼性が求められる医療分野でも活躍しています。代表的な例がCTスキャナです。CTスキャナはX線管球が患者の周囲を高速で連続回転する必要がありますが、ここでは大容量の電力を供給しつつ、撮影した大量の画像データを固定側のコンピュータへ瞬時に転送するためにスリップリングが使われています。
手術用照明の可動アーム部分などにも採用され、自由なポジショニングを実現しています。
監視・通信・エネルギーの分野でも欠かせない部品です。360度エンドレスに旋回する監視カメラ(PTZカメラ)では映像信号と電源の供給を担い、風力発電では風向きに合わせてナセルの向きを変えるヨー制御やブレードの角度調整に使われています。
身近なところでは、遊園地のメリーゴーランドや観覧車のイルミネーションを点灯させるためにも、この技術が活用されています。
スリップリングを選定する際は、電気的なスペック(電圧・電流・極数)に加え、機械への「取り付け方法(形状)」が重要です。代表的な2つのタイプを紹介します。
本体の中心に穴(ボア)が開いているドーナツ型のタイプです。 装置の回転軸(シャフト)をこの穴に通して設置できるため、既存の駆動軸がある場合や、スペースを有効活用したい場合に適しています。産業機械で一般的に使われる形状です。
回転軸の「先端(端面)」に取り付けるタイプです。 カプセル型のように小型・軽量なものが多く、小型の監視カメラや計測器、試験装置など、取り付けスペースが限られている場合に適しています。
スリップリングは、回転体の設計自由度を飛躍的に高める「縁の下の力持ち」です。
配線のねじれ対策として「余長を持たせる」「回転範囲を制限する」といった対処療法を行うよりも、スリップリングを導入することで、装置の小型化、ケーブル断線リスクの低減、メンテナンス性の向上といった多くのメリットが得られます。
「回したいが、配線が邪魔になる」という課題に直面した際は、必要な極数(回路数)や回転速度、設置スペースに合わせて、適したスリップリングの選定を検討してみてはいかがでしょうか。
スリップリングを使用することで、回転体への通電・通信を、ケーブルのねじれや絡まりを防ぎながら実現できます。360°の連続回転中でも、電力や信号を途切れることなく伝達できます。
スリップリングを採用することで、断線を避けるための迂回設計が不要になり、装置構成をシンプルに保てます。ケーブルレス化によって、設備をより簡素に設計することも可能です。
工作機械・充填機・撹拌機・ターンテーブル・ロボットアームなど、幅広い産業機器に対応できます。さらに、医療分野のCTスキャンや風力発電、セキュリティカメラなどでも採用されています。
スリップリングは、温度・トルク・振動などの微小な計測信号の伝送にも対応できます。回転中の計測データを、リアルタイムで外部へ取り出すことが可能です。
接点材に貴金属や金合金を採用した製品では、接触抵抗が安定し、長寿命化を実現できます。さらに、非接触方式の信号チャンネルを選択すれば、メンテナンスフリーでの運用も可能です。
スリップリングの選定では、組み込む装置の種類や用途によって特有の要件があります。
ここでは、現場で特に求められる条件に対して強みを持つ3つのメーカーを紹介します。

フルカスタムでしか実現が難しかった、内径φ50mmクラスの中空軸に、大電流(各極数十A級)と1,000Mbpsの高速通信の混載要件にセミカスタムで対応。
短納期かつ低コストで、性能を実現できる。
「中空型」「軸端型」など既存のセミカスタム品ベースの設計でゼロからの専用設計が不要。
ノイズ対策や寸法調整といった要件を反映でき、試作1台からの小ロット発注にも国内一貫生産体制でスピーディに対応。

外径φ22〜30mmクラスに適合し、0.3Aの通信用回路を最大18極まで選べる小型シリーズを標準品でラインナップ。
CC-Link規格準拠のモデルもあり、規格ケーブルでのダイレクト接続が可能。
余分な慣性や抵抗を抑え回転機構に組み込んでも測定誤差が生じにくい軽量・低トルク設計。
質量26g・起動トルク0.005N·mのモデルなどがあり、回転ステージや治具でも精度を維持できる。

CTなどの大型医療装置のフレームを貫通できる内径1,397mmに対応。
限られた設計空間にも組み込めるため、既存の筐体寸法の制約内でも回転部の構成が可能。
最大1,000V・300Aの電力と、合計80Gb/s超えの画像データを、1台で同時伝送。
CTスキャナのX線管や冷却系を支えながら、装置内部の配線を簡素化できる。